今月の逸品

ただいま展示中の「今月の逸品」

土の中の声なき声

「平和を欲するなら、戦争をしらねばならぬ」

         ー ガストン・ブトゥール ー

霞が丘模擬手榴弾02.jpg

訓練用手榴弾(模擬弾)

近代 (約90年前)

霞ヶ丘町遺跡(新宿区霞ヶ丘町)

神宮外苑の一角で、不意に出土した手榴弾と思しき鉄塊。一瞬身構えたが、よく見ると重量まで再現された模擬弾だ。こうした武器模造品は、緊迫度を高めていた昭和十年ごろから学校教練などで用いられていた。その出自は定かではないものの、この模擬弾も教育の場で実戦さながらの訓練が行われ、やがて無垢の学徒を戦地に駆り立てていった歴史の声なき語り部の一人と言える。

残念ながら、今これをとりあげたからと言って、即、世界から戦争がなくなることは無い。しかしあの惨状の記憶が急速に失せていく中、こうした声なき声を一つでも多く掬い上げていくことも、埋蔵文化財に関わるものに課せられた債務であることを、80回目の815日を迎えて、改めて心に刻み直した次第である。

次回の更新予定
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