今月の逸品
現在展示中の今月の逸品
やがて悲しき「鍋被り」
I wanna be as free as the spirits of those who left.
(この世を去ったあの先人たちの魂のように自由でありたい。)
--Common, Be(Intro)
鉄鍋
江戸時代中期(約250年前)
多摩ニュータウンNo.339遺跡
(町田市小山ヶ丘)
展示の鉄鍋は現在多摩境駅のある付近の、墓と推定される穴の中から見つかった。
屋敷地から少し離れた山裾にポツンと一つだけあったもので、死者の頭に鉄鍋を被せる「鍋被り葬」が行われたらしい。
「鍋被り葬」は主に中世後期から近世にかけて中部~東北の村落で見られ、ある種の伝染病の患者や行路死者など、忌避・差別の対象となるような遺体に対して行われたとされる。
関東地方では本例のように村境等に単独で葬られることが多く、穢れを排除するとともに、村外から来る悪霊・悪疫を防ぐような役割を期待していたようだ。
一見滑稽な風習だが、蔑視したはずの人物を死後一転、村の守護に利用しようとする人間の深い業を感じさせる。
自らを遠ざけた当の村を「境神」として守る被葬者の姿を、悲惨と見るべきか?高潔と見るべきか?
ただ、死後数百年が経ち、墓の主が守ってきたはずの集落も開発の波に呑まれて姿を消した。
その魂もついに重い束縛から解き放たれ、自由になっただろうか?
次回の更新予定
次回の更新は12月末頃を予定しています。